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現在わが国の平均寿命と健康寿命の間には男女ともに10年以上の乖離があり,これからの医療費の高騰が問題視されている.
本書では健康寿命を延ばすための「予防医療」に焦点をあて,プライマリ・ケアの介入によって疾患の重症化や不必要な入院を減らしてヘルスリテラシーを高めるため,総合診療医として知っておくべき情報や,検診/健診・予防接種の実態などが詳細に記載されている.
序文
シリーズ〈スーパー総合医〉の企画が立ち上がり,そのなかの予防医療に関する巻の責任編集のお話をいただいたのは2012年9月のことで,そこから6年越しの刊行となる.全10冊中9冊目ということで,先に刊行された他の諸先輩がたの巻を毎回拝読しながら,それらに劣らない書籍になるだろうかと,毎回身の引き締まる思いをして,構想を練っていた.また,企画着手当時は予防医療に関する優れた日本語の本はあまり多くなかったが,素晴らしいと思われるアイデアは大体他人も思いついているもので,スクリーニングの理論的基盤を包括的に解説する随一の教科書は2009年に日本語になっており,USPSTFの推奨を中心にその背景を概説する書籍が2015年に,また,EPG(evidence-practicegap;エビデンス-診療ギャップ)を埋める際に,実運用の段階で患者さんに伝える際に肝となるヘルスリテラシーについては,これも素晴らしいまとめが2016年に発行されたのち,翌年には「全く違う視点で」ということで,EPGを埋めるための全体像と各段階での工夫という視点から雑誌の特集をまとめる機会を他所で得てしまい,山手線ゲームの辛さというか,後になればなるほど,「metoo」本,二番煎じにならないためのハードルが上がり,もっと早くに出版してしまえばよかった,と後悔しながらの本書の構想である.
そのような中で,本書のユニークな点は従来のhealthmaintenanceの範疇にとどまらず,発生予防(2章),救急受診・重症化予防(3章)の章を設けたことである.特に,3章のACSC(ambulatorycaresensitiveconditions)の考え方は,海外では,ACSCをモニタリングすることで間接的にその地域のプライマリ・ケアの質を測定するということが取り組まれているにもかかわらず,まだ日本での浸透は不十分である.おそらく本書が日本で最初にACSCについて詳述された書籍ではないかと自負している.
ACSCは「質の高いプライマリ・ケアによってある程度予防可能な疾患」のことを指し,ある地域の急性期病院で,ACSCに含まれる病態による救急受診や予定しない入院が他の地域に比べて多いということは,その地域のそれらの疾患をマネジメントしているプライマリ・ケアの質が他地域よりも貧弱かもしれないということを示す.今回ACSCとして挙げられた各疾患の項目は,Bardsley(2013)によるリストを元に構成している.一部違和感のある項目が挙げられているかもしれないが,その構成要素についてはまだ十分なコンセンサスの得られていない概念であり,このリストを元に,今後洗練されてゆくことを期待している.病院の医師も地域の家庭医・かかりつけ医も是非本書でACSCに含まれるのがどのような病態かを理解してほしい.病院の医師が自院のACSCの疾患をモニタリングし,その質や量に応じて,地域のプライマリ・ケアを担う医師・医療機関とカンファレンス,フィードバックなどをすることで,地域のかかりつけ医の患者の予防可能な病態による救急受診や入院を減らすことができ,また,病院もそれらの予定外受診や入院が減ることにより待機的な検査,手術,診療が可能となり,それらの待ち時間が減る,また,さまざまな緊急対応,臨時対応が少なくなることでストレスの軽減となる.
一方で,救急受診・重症化予防というのは,しっかりと原疾患を治療するということでもあり,本書中の記述内容がいわゆる疾患治療マニュアルの域を出なくなった項も存在する.本来は,救急受診・重症化予防の視点から,各病態において,外来でのフォロー頻度と重症化との関係や,経済的に割に合うのかなども検討すべきであったが,まだ研究が十分になされていない領域でもあり,これは,私から各著者への依頼の際に十分に言葉を尽くせなかったことによるためどうかご容赦願いたい.
既出の書籍でも取り上げられた内容を含む1章(予防医療と健康維持),4章(予防医療の実践)についてはできる限り情報を最新のものにしたことと,項目の立て方を切り口の違うものにしているため,新たな視点が得られるものと信じている.しかしながら,予防医療の扱う領域は極めて広く,小児予防接種,がん以外の検診,社会的処方,多疾患併存,パネルマネジメントなど,本書で取り上げられなかったり,十分な紙数が割けなかったものも多い.
執筆陣は,現時点で私が考えるその領域のベストである方々にお願いした.私のコミュニケーション不足やリーダーシップ不足により,執筆陣の最大限を引き出せなかった部分もあると思われるが,皆,期待以上の玉稿を多忙の中からいただいている.この場を借りて改めて深謝申し上げる.また,企画から出版まで,私の処理能力の低さに我慢強く付き合いサポートしていただいた中山書店編集部の皆様には,感謝してもしきれない.この本を通じて,徹底的な予防医療の実践ありきではなく,個々の患者,住民が望む人生を全うするための手段としての良質な予防医療が十分に提供され,より多くの人が幸せになることを期待するものである.
2018年5月
専門編集:岡田唯男(鉄蕉会亀田ファミリークリニック館山院長)
目次
1章 予防医療と健康維持
予防医療とは (香田将英,岡田唯男)
予防医療(ヘルスメインテナンス)の4領域 (岡田唯男)
スクリーニング
スクリーニングプログラム (宮﨑景)
良いスクリーニングの条件,予防医療のバイアス (岡田唯男)
乳幼児健診,学校健診 疾患の早期発見により,発育発達への影響を最小限に (勝丸雅子)
妊婦のスクリーニング (池田裕美枝)
高齢者のスクリーニング 余命,タイムラグ,価値観をふまえた意思決定を (関口健二)
COLUMN 高齢者予防医療のやめどき (岡田唯男)
がん検診 推奨グレードA,B(一般成人) (塩田正喜)
がん検診 推奨グレードD(一般成人) (中山明子)
がん検診 I声明(一般成人) (宮﨑景)
胃がんのスクリーニング (大竹真一郎)
予防接種
予防接種 総論 予防接種における誤解とその対応 (菅長麗依)
日本脳炎ワクチン (中山久仁子)
百日咳ワクチン 思春期,成人の流行予防を中心に (菅長麗依)
インフルエンザワクチン (黒田浩一,細川直登)
HPVワクチン (中山久仁子)
麻疹風疹混合(MR)ワクチン,おたふくかぜ(ムンプス)ワクチン 先天性風疹症候群の予防を中心に (岡田悠)
破傷風トキソイドワクチン (千葉大)
帯状疱疹ワクチン (千葉大)
高齢者肺炎球菌ワクチン (吉田真徳)
カウンセリング
行動変容とカウンセリングのための理論 TTM(Transtheoretical Model)を中心に (岡田唯男)
タバコのカウンセリング (岡田唯男)
アルコールのカウンセリング (吉本尚)
依存性物質のカウンセリング (吉本尚)
その他の予防医療 (坂井雄貴,岡田唯男)
予防医療の費用対効果 (田中豪人)
COLUMN 健診/検診を受けるかどうか論理的に考えると (名郷直樹)
2章 発生予防
小児の虐待・事故の予防 (小橋孝介)
望まない妊娠・異常妊娠の予防 (水谷佳敬)
更年期症状・骨盤臓器脱の予防 (柴田綾子)
サプリメント,栄養補助食品などの摂取 (濱井彩乃)
運動による予防 ベネフィットとリスク (小嶋秀治)
スポーツ障害の予防 (服部惣一)
糖尿病・メタボリックシンドロームの予防 生活習慣改善支援 (布施恵子,森野勝太郎,藤吉朗)
Special Lecture アスピリンの予防的内服 (岡田唯男)
COLUMN 忘れられた万能の予防薬? Polypill (岡田唯男)
プレホスピタルケア 医療のフォーカスを院外へ (石見拓)
アドバンス・ケア・プランニング(ACP) 急性期医療との連携 (吉田真徳)
高齢者総合機能評価(CGA) 高齢者は「歳をとった大人」ではない (岡田唯男)
認知症の発生予防 (中村琢弥)
廃用症候群・サルコペニアの予防 (若林秀隆)
褥瘡の予防 (織田暁寿)
高齢者の骨粗鬆症・転倒の予防 (山下洋充)
施設での転倒・せん妄の予防 (本田美和子)
介護予防 (曽我雄吾,加藤光樹)
高齢者虐待の予防 (小野沢滋)
がんと診断された時からの緩和ケア 早期緩和ケアの導入によって何が予防されるのか (西智弘)
正常な死別の悲しみに寄り添う面接 (今村弥生)
不眠予防 (澤滋)
自殺予防 今村弥生 188
労働者の疲労と睡眠 過労リスクとオンとオフのメリハリの重要性 (久保智英)
交通事故予防 運転者として 歩行者として (市川政雄)
周術期合併症予防 (遠藤慶太,平岡栄治)
感染症の曝露後予防 (海老沢馨)
地域での耐性菌発生予防 (大倉敬之)
Choosing Wiselyキャンペーン 過剰医療がもたらす健康リスクを問う (小泉俊三)
3章 救急受診・重症化予防-ACSCの考え方
ACSCとは (篠塚愛未,岡田唯男)
ACSC関連因子
医療提供体制との関連 (家研也)
危険因子としての“SDH”健康の社会的決定要因 (長嶺由衣子)
Acute ACSC
胃腸炎 (遠井敬大)
脱水/栄養不良 (小児の場合 岡田悠)
脱水/栄養不良 成人・高齢者の場合 (若林秀隆)
歯科疾患 総合診療医に知ってほしい予防歯科 (蓮池聡)
耳鼻咽喉科感染症 Airwayを制する (小山泰司)
穿孔性・出血性潰瘍 (大竹真一郎)
虫垂炎穿孔 (松田諭)
尿路感染症 腎盂腎炎はどう予防する? (長田学)
蜂窩織炎 (村上義郎)
壊疽 (村上義郎)
骨盤内炎症性疾患 (水谷佳敬)
Chronic ACSC
高血圧 (張耀明)
狭心症 (水上暁)
うっ血性心不全 (末永祐哉)
末梢動脈疾患による下肢切断 (織田暁寿)
糖尿病合併症 (三好優香,小川理)
鉄欠乏性貧血 (内堀善有)
喘息 (小宮山学)
総合診療医が診る慢性閉塞性肺疾患(COPD) 早期発見から確定診断までのアプローチ (川島篤志)
てんかん (園田真樹)
Vaccine preventable ACSC
インフルエンザ (海老沢馨)
肺炎 (米本仁史)
結核 (大倉敬之)
低出生体重児 (池田裕美枝)
熱性けいれん (岡田悠)
不定愁訴 (國松淳和)
4章 予防医療の実践
予防を診療の中に組み込む
エビデンス-診療ギャップとエビデンス・パイプライン (岡田唯男)
いつ行い,その効果をどのように伝えるか (堀越健)
医療者のアプローチ CQIの実践を多職種で楽しむ文化醸成を (小坂鎮太郎,松村真司)
予防医療のシステムズ・アプローチ (青木拓也)
Health Promotion-地域へ出よう
地域アセスメント 環境に潜むリスクのスクリーニング (山田康介)
Social Capital 予防としての地域づくり (井階友貴)
予防医学の住民教育と医療者の教育 ヘルスリテラシーと早期発見,予防 (稲葉崇,阪本直人)
予防医療のジレンマ
予防医療における臨床倫理 (向原圭)
保険診療,診療報酬制度との兼ね合い (富塚太郎)
COLUMN 価値に基づく診療(value-based practice:VBP)と予防 (尾藤誠司)
索引
Nakayama Shoten Co., Ltd.